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アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点 を読んだ感想

「アリ対猪木 アメリカから見た世界格闘史の特異点 ジョシュ グロス」をやっとこさ読み終えた。

この本は1976年6月26日に行われた「モハメドアリ対アントニオ猪木」について主にアメリカ人視点から描かれたノンフィクション本である。

「アリ対猪木」の試合については、日本人が書いた書籍を何冊か読んだことはあるが、あくまでそれは日本側の視点であり、今回は初めてアメリカ側の視点で書かれた本を読んでみた。

本にはアメリカでのボクサー対レスラーの長い歴史、アメリカのプロレス、ゴージャスジョージ、日本のプロレス、力道山、モハメドアリ、アントニオ猪木ビンス・マクマホン・ジュニア、など沢山の事柄や人物が登場する。

肝心の試合についても、成立にいたる経緯やルール問題、ラウンドごとの解説、アメリカでの観客達の反応、が分かりやすく丁寧に描写されている。

解説は柳澤健が書いているが、彼の著作である「1976年のアントニオ猪木」を併せて読んだ方が良いと思う。物語、登場人物がかなり重複していて、知識の予習復習補完をすることができる。柳澤自身もこの本は「1976年のモハメドアリ」と明言している。

試合自体はラウンド毎にアメリカ人視点で詳細に解説している。試合中のアリやセコンド達のやり取り、アメリカ側の放送席の反応を知ることができて、読んでいて引き込まれた。英語の分からない僕にとっては日本語への書籍化は本当に嬉しい。

ただ本を読んでいて気になった点がある。それはアリ一行が来日した後に通訳のケン田島に対して「いつ試合の練習をするんだ?」と確認するエピソードがこの本には記載されていない、ということ。要はこれはアリは来日するまでプロレスをするつもりだった、という重要な(少なくとも僕にとっては)証言であり、日本側のどの書籍にも記載されているのではないだろうか。

この本によると、試合の数か月前にはアリはたしかにプロレスをするつもりだったがビンス・マクマホン・シニアが「負け役」を提案した際にアリに拒否された、とある。アリは来日前から真剣勝負をするつもりだった、というニュアンスで物語は進行しているのだ。

はたしてアリは来日前に既に真剣勝負をするつもりだったのか、それとも来日後にプロレスから気持ちを切り替えたのか。(興味ない人にとってはどうでもいいんだろうが)日本側とアメリカ側で認識が食い違っている。

アリとケン田島とのエピソードはなぜこの本に記載されていないのだろうか。ジョシュ・グロス氏の取材不足なのか日本側のねつ造か、それともアリに恥はかかせてはいけないという一種の配慮なのかもしれない。プロレスをするつもりで来日していたとしたら何だかアリが間抜けに見えてしまうだろう。

あと試合には関係ないが、気になった箇所はp194-195に書かれている、プロレスラー鈴木健三のwwe参戦についてだ。

当初鈴木健三はwwe参戦の際に昭和天皇の曾孫「ヒロヒト」のギミックで売り込まれる予定で、宣伝映像がテレビに流されたが、結局このアングルは急遽中止になってしまった。

理由は日本の皇室関係者が激怒して「wweを日本から追放する」と脅してきた、と本には記している。

皇室関係者とは、具体的に誰なのか。日本の皇室はそんなにも影響力があるのか。日本にwweがいまいち浸透しないのはもしかしてこれが遠因の一つなのかな、と妙な妄想までしてしまった。さりげなく日本のタブーに触れてしまっているのではないのだろうか。

ともあれこの「アリ対猪木 ジョシュ・グロス」。 p355もある分厚い本だ。一回読んだだけでは飽きることはない。今後何回も読み返すことになるだろう。1800円+税の料金分の元は十分取れるはずだ。