コンビニの可愛い女性店員に連絡先を渡してみた。

僕は自動車部品工場に勤めている。

そこは日勤と夜勤の交代制だ。一週間ごとに変更していく。

日勤の場合は昼食に弁当が支給されるが、夜勤の場合は自分で夜食を用意しなくてはいけない。

僕の場合は通勤途中のコンビニで買っていた。

そこのコンビニに可愛い女性店員が働いていた。

年齢は20代前半だろうか、愛想がとても良く、「こんばんわー」「ありがとうございます」と笑顔いっぱいであいさつされると、とても気持ちが良くなった。

工場の夜勤は肉体的にも精神的にも過酷な作業だ。眠くてかったるくて、何だか内蔵がおかしくなり、みんなが寝てる時に働いているので世間との疎外感をとても感じる。

そんな時にそのコンビニ店員と接することは、過酷な工場勤務、つまらない日常、刺激のない毎日のなかで、いつの間にやら数少ない僕の娯楽になっていた。

その子の笑顔を見ると、心が癒されて辛い夜勤も乗り越えられたような気がする。

通っているうちに判明したのは、彼女の出勤日は火、木、金曜日ということ。だから月、金曜は何だかつまらなかったり他のコンビニに行ったりしていた。

ただ、なかなか彼女と会話する機会は恵まれなかった。もともと僕は人と会話をするのが苦手であり、あくまで僕らはコンビニの店員と客という立場に過ぎないし、他の利用客もたくさんいる時間帯だったので声を掛けずらかったのだ。

彼女の存在を知って一か月くらい経って、なんとか話し掛けるタイミングを探している日々のなか、たまたま僕以外に他の客がいない日があった。別の店員は商品の仕入れをしており、彼女だけがレジにぽつんと立っていたのだ。

これはチャンスだ、と思いきって話し掛けてみることにした。でも何て声を掛ければいいんだろう。僕は商品をレジへと取り合えず持って行った。商品をレジ袋へ積めてくれている彼女をふとみてみるとその日はメガネを掛けていた。いつもは掛けていないのだ。

この事柄を会話のきっかけにしようと思い、僕は震える声で「メガネ、掛けるんですね」と思い切って話しかけてみた。すると彼女は「コンタクトレンズ、なくなっちゃったんです」とニコニコ笑顔で答えてくれた。続いて勢いで僕は「メガネ姿も可愛いですね」と褒めてみたら、彼女は「ありがとうございます」と喜んでくれた。彼女の顔は真っ赤になっていて明らかに照れていた。

その時はたったそれだけの会話だったが僕はとても嬉しかった。それからは「今日、寒いですね」とか「このパン、おいしいのかな」とか軽い世間話をしてくれるようになった。。

よおし、今度は連絡先を教えてもらおう、と思うようになった。

引き続き、連絡先交換を探るためにコンビニ通いを続けるようになった。

そしてついに先週の木曜日にその機会に恵まれた。

いつものようにそのコンビニに行ってみると、丁度、他の客は誰もいなくて、もう一人の店員は駐車場の清掃をしており、可愛い女性店員は一人店内のレジにぽつんと立っていた。

僕は事前に自分の氏名と連絡先が記載されている名刺を作成しておいた。いつものように夜食を買って帰り際に、思い切って「あの、これ僕の名刺です。まずはメル友になってくれませんか」と震える手で名刺を渡してみた。

するとその女性店員は屈託のない素晴らしい笑顔で「あ、もう全然・・・」と答えてくれた。

僕は一気に有頂天になって「連絡待ってます」と思いを込めてコンビニを後にして仕事場へと向かった。

その日は工場の夜勤だったが、勤務中、僕の顔のニヤニヤが止まらなかった。どうしても顔がニタニタしてしまうのだ。周りの同僚からは気味悪がられていたことだろう。何しろ一人でいつまでもニンマリしているのだから。でもいいんだ、これから僕にとって新しい出会いが始まるのだから。

仕事の最中は色々な妄想をしてしまった。初デートはどこでしようか。彼女の住まいの近くでするべきか、駅周辺はどうか。何を話そうか。ゴールデンウィークはどこへ行こうか。会話のシュミレーションを一人でぶつぶつ唱えていた。

で、休憩時間になったら、さっそく携帯電話をチェックだ。可愛い女性店員から連絡は来ているかな、てな感じ。

でも「新着Eメールはありません」だった。その時は夜勤だったから、休憩時間とはいえ実際には深夜だから、朝になれば届くだろう、と思っていた。

そして勤務終了。早朝、ケータイをチェックするが「新着Eメールはありません」 会社から帰宅して朝食を食べて風呂に入った後、ケータイをチェックしても「新着Eメールはありません」 寝て、一旦昼過ぎに起きてケータイをチェックしてみるが「新着Eメールはありません」

ひょっとしてケータイが壊れてしまったのかな、とその時は本気で思った。メールを受信できなくなってしまったのかな、と。あるいは渡した名刺の連絡先が間違って記載されているのかな、と。

とりあえず休日になれば届くのかなと、土曜、日曜とそれとなくケータイをチェックしていたが、ついにメールは僕のケータイに受信されることはなかった。

・・・いや、ショックだったよ。メールが届かない。じゃあ、あの女子店員の素晴らしい笑顔はなんだったんだ。まぁ、「なんだったんだ」って、ただの社交辞令だったんだろうけど。

「女性店員からメールが届かない」と認識してからは、何か悶々とした日々を送った。居ても立っても居られない、というか、気が付いたらぼーと虚空を見つめているというか、とにかくおかしな精神状態だった。

時折、僕の中の悪魔が、コンビニに乗り込んでいって「何で連絡をくれないんだ、バカ!」と怒鳴りつけてやれ、と囁いてきたが、ぎりぎりで阻止した。とにかくおかしな精神状態だった。

名刺を渡して以来、あのコンビニには行っていないし、今後も行くことはないだろう。あの可愛い女性店員の気持ちを汲んだ結果だ。語らずとも察してやれ、だ。ささやかな夢を見せてくれてありがとう。さようなら。